• 弁護士柴田佳佑

えっ,私が相続人?「相続したくない」方が相続破棄するまでの基本知識とその流れ

突然の事態に備えて知っておきたい「相続」問題

 相続というと,俗に「争続」と言われるような遺産争いを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。そんな「相続したい」遺産がある一方で,「知らないうちに,思いがけない人の」相続人になっているというケースも頻繁にあります。
 
 今回は,突然の自分が通知で叔父の「負の財産」の相続人であることを知ったAさんのエピソードと共に,相続人の基本知識,相続しない場合に行う「相続破棄」の手順についてご紹介いたします。
 
 親族との付き合いが希薄になっているインターネット時代においても,戸籍上の血縁関係は法律上効力を発するということを再認識するとともに,ご自身のご親戚へ今一度思いを馳せるきっかけとしても,ぜひご一読くださいませ。

1.金融機関からの郵便で「あなたが相続人」と通知

 平成28年1月のある日,AさんのところにB金融から郵便が届きました。AさんはB金融とは取引したことはなく,何だろうと思い封を開けると,

 
 Cさん相続人様
   Cさんは弊社から50万円を借りていましたが支払が無かったのでご通知します。
 

といった内容が書かれていました。

 CさんはAさんの叔父ですが,Cさんには妻も子もいると聞いていました。その上,Cさんとは子供のころ1,2回会った位で連絡も取っていなく,AさんはCさんが亡くなっていたことさえ知りませんでした。

 Aさんは突然自分が叔父の相続人であると言われ,驚いてしまいました。なぜ,AさんはCさんの相続人と言われたのでしょうか。

2.おい,めいも相続人となることがある

 民法では,誰が相続人になるかについて次のように決められています。

 
・配偶者(夫・妻)(890条)

・被相続人(亡くなった方)の子(887条)
※被相続人が亡くなったときに子もすでに亡くなったりしていれば孫やひ孫になります。

・子や孫がいないときには,被相続人の直系尊属(亡くなった方の両親や祖父母)(889条1項1号)

・子や孫,両親や祖父母もいないときには,被相続人の兄弟姉妹(889条1項2号)
※被相続人が亡くなったときに兄弟姉妹もすでに亡くなったりしていればおい・めいになります。
 

直系尊属は被相続人の子や孫,兄弟姉妹は被相続人の子や孫と直系尊属の相続人がいないときに初めて相続人になるので,それぞれ第2順位,第3順位と呼ばれたりします。

 この法律を表にすると,以下のようになります。
相続順位

 第1順位,第2順位の相続人がいない場合に,第3順位のおい・めいまで相続人となる可能性があるのです。

3.あなたが相続人と言われたらどうする?真偽の確認方法について

 とはいえ,ご自身の親が亡くなったときであればともかく,「あなたは叔父や叔母の相続人です」と言われても本当か定かではないケースが多いはずです。

 そこで,次のような手順で自分が本当に相続人なのかを確認できます。

 
(1)戸籍を取り寄せる
 
 亡くなられた被相続人ご本人,自分より順位が上の相続人の戸籍を取り寄せます。ここで,自分より順位が上の相続人がいるかを確認します。
 

(2)相続放棄がされているかを確認する
 
 戸籍上では自分より順位が上になるはずの人がいたとしても,自分が相続人でないとは限りません。

 順位が上になるはずの人が存命であるにも関わらず,自分が相続人と言われる場合,その人が相続放棄をしていることが考えられます。
 ですので,順位が上の人がいる場合には「自分は相続人ではない」とすぐ決めてしまうのでなく,相続放棄がされているかも確認します。

 

 (2)の確認は,被相続人が最後に住んでいた住所を管轄*する家庭裁判所に対し「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」という方法でできます。
 
 具体的な手続方法は,裁判所に問い合わせるか,裁判所ホームページをご確認ください。一例として,東京家庭裁判所では説明文や用紙が公開されています。

東京家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会をされる方へ」(相続人用)

東京家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会申請書」)

*被相続人の最後の住所地は,亡くなった方の住民票か戸籍の付票という書類を取ることで分かります。

4. Aさんのケースでは?戸籍確認から高順位者の相続破棄照合

(1)戸籍の確認

 AさんはB金融からの通知を見て戸籍を確認したところ,Cさんのお子さんやご両親の状況は次のとおりでした。

戸籍

 なお,戸籍ではCさんの妻Iさん,Cさんの兄Jさんもご存命でしたが,Iさんは常に相続人となり,JさんはAさんと相続の順位が同じなので,これらの方はAさんがCさんの相続人になるかならないかという点では影響しません。

(2)自分より相続人としての順位が高い人がご存命の場合は「相続放棄」の有無を紹介


(1)の戸籍の確認を相関図とすると以下のようになります。
人物相関図
 Aさんよりも相続人としての順位が高いEさんがご存命でした。そこで,AさんはEさんが相続放棄をしているか家庭裁判所に照会をし,平成27年10月10日相続放棄をしていることが分かりました。
 これらのステップを経て,Cさんより先の順位となる人はいずれもCさんより先にお亡くなりになっているか,相続放棄をしていたので,Aさんが相続人になっていることが分かりました。

5.相続人であることが分かったら 「相続」「相続放棄」の手順

(1)相続放棄するには


 相続人であることが分かったものの相続をしたくない場合は,家庭裁判所に相続放棄の申述をすることができます。

 なお,相続放棄の期間は3ヶ月とよく言われますが,正確には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です(民法915条)。
Aさんのケースですと,B金融から通知が来たり,戸籍等を確認したりして初めて相続の開始を知りましたので,その旨を家庭裁判所に説明すれば,知ったときから3か月以内であれば相続放棄できる可能性は十分にあります。

(2)相続をするには


 相続をするときには,さらに自己の相続分を確認したり,他の相続人と話合いや遺産分割協議をしたりする必要が出てくることがあります。
Aさんのケースですと,IさんやJさんが相続人かを確認する必要も出てきます。

最後に

 今回のケースのように,事情が分からないままに,疎遠であった親戚の相続人として突然通知が来ることがしばし起こります。

 その場合でも相続は待ってくれません。特に,おい,めいまで相続しているような場合,被相続人の負債が多いので先順位の人が皆相続放棄をしているということもあります。身に覚えがないからと言って,「あなたが相続人です。」という話を聞いても無視することは非常に危険です。
 
 本来先順位の相続人になるはずの人が多くいたり,相続も考えるのであれば相続財産の調査,また裁判所に相続放棄申述の期限を延長してもらう手続をする等,多くの手続や時間が必要になることもあります。
 
不安であったり,時間を取れない方は専門家に任せるのも1つの選択肢です。