家族の紛争

相続時の預貯金の払戻し方法・必要書類

  • 執筆者:弁護士椿良和

高齢の親御さんと同居される場合、子供世代が通帳を預かり日々の生活費や医療費などの支払いを代行しているというご家庭は多くあると思います。
このような状態で親御さんがお亡くなりになり相続が発生しますと、銀行等に預けられた預貯金の取り扱いについては、法的にはいろいろな議論があったところではありますが、実際上銀行の窓口ではこれまで通りの払い戻しを受けることはできなくなり、いろいろな書類が必要となってきます。

この払い戻しに必要な書類は、金融機関ごと、支店ごと、はては窓口で対応する担当者ごとにまちまちで、我々弁護士が相続案件を対応する際にも毎回窓口に問い合わせをするなど苦労している部分です。

また、相続発生時の預貯金の取り扱いについては、ここ最近で最高裁の新しい判断や法改正もなされました。

そこで、取り急ぎ葬儀費用や相続税の支払いなど現金が必要であるにもかかわらず手元に現金がないという状況になった場合にどのような手段が取りうるか、また銀行の窓口にどのような書類を持ってゆけばよいのかをまとめてみたいと思います。

預貯金の法律上の取り扱い~最高裁の判断

被相続人名義の預貯金債権について、平成28年に最高裁判所(平成28年12月19日最高裁大法廷決定(平成27年(許)第11号))は、従来の考え方(相続発生時に自動的に分割されるというもの)を変更し「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」と判示しました(民集70巻8号2121頁)。

要するに、預貯金であっても相続財産として、相続人全員で分け方を協議して協議が整うまでは共有状態にあるという判断です。

なお、共有状態にあるとすると当然一人の相続人が単独で払い戻し請求をすることはできませんが、この最高裁決定の補足意見では、家事事件手続法200条2項に基づく仮分割の仮処分を活用することで単独での払い戻しも可能であるとの言及がありましたが、この手段は、「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という要件が必要であったため、実際は相当に難しいと言わざるを得ませんでした。

では、単独で払い戻すことはできないのでしょうか。
平成30年の法改正によって新設された二つの条文によって、二通りの路が開けました。

仮分割の仮処分による払戻し

平成28年の最高裁決定でも言及のあった「仮分割の仮処分」ですが、さすがに要件が厳しすぎて使い勝手が悪かったのか平成30年7月6日の家事事件手続法の改正により要件が緩和され、現在では幾分使いやすくなっています。

具体的には、家事事件手続法200条3項が新設され、遺産に属する預貯金債権については、
①遺産分割調停又は審判の申立てがある
②相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により預貯金債権を行使する必要がある
③他の共同相続人の利益を害しないとき
という要件を満たせば、預貯金債権に関する仮分割の仮処分が認められるようになり、遺産に属する預貯金債権については、従前よりも、仮分割の仮処分がしやすくなりました。

遺産分割前の預貯金債権行使

また、裁判等の手続きを必要としない方法として「遺産の分割前における預貯金債権の行使」という制度が平成30年7月6日の民法の改正により新設され令和元年7月1日以降施行されています。

これは、遺産分割前でも、相続人の一人からの請求により、金融機関の窓口において預貯金の一部払戻しができるというものです。
ただし、払い戻しを受けられる額は全額ではなく
【当該金融機関にある被相続人の債権総額の1/3】×【請求者の法定相続分】
にの限度でかつ、「預貯金債権の債務者」である金融機関ごとに、「法務省令で定める額」である150万円が上限とされています。

必要書類を問い合わせてみました

この遺産分割前の預貯金債権行使の制度による払い戻しについては、制度が始まって間もないことから各金融機関における対応もまちまちな状況となっています。
そこで、私が実際にいくつかの金融機関(主に博多オフィス近辺)に、払い戻しに必要な書類を問い合わせてみました。問い合わせにご対応いただいた担当支店特有の事情もあるかもしれませんがご参考までに表にまとめてみます。
なお、運用の変更やそもそもの誤りなどあればご指摘いただけると助かります(随時修正します)。

 金融機関 必要書類
福岡銀行1 一部払戻し請求書
2 戸籍謄本

一部払戻し請求書は福岡銀行の書式があります。この書面には他の相続人の署名と実印の押印が必要とのことです(キビシイ!)。実印が必要ということですので、言われませんでしたが他の相続人の印鑑証明書も必要なはずです。

 西日本シティ銀行1 戸籍謄本(被相続人死亡+請求者が相続人であることを示す)
2 請求者の印鑑登録証明書
3 民法909 条の2に基づく請求であることの証明書の発行依頼書

3については、西日本シティ銀行の書式の場合、手数料が550 円、他行の書式の場合、手数料 1100 円とのことです。

 ゆうちょ銀行1 相続確認票(通常の相続手続きのときと同じ書類)
2 戸籍謄本(被相続人死亡+請求者が相続人であることを示す)

結婚歴がある場合は、戸籍謄本については被相続人に結婚から死亡までのものが必要で、さらにそれで足りるか否かを貯金事務センターで判断するそうです。

相続に関しても当事務所にご相談ください

以上のように、遺産分割前に遺産である預貯金について一部取得する方法が複数ありますが、これらの方法の要件や効果などが異なります。
事案に応じて、これらの手段を取捨選択することも検討すべきでしょう。

当事務所では、相続案件については、初回1時間まで無料相談を実施しております。詳しくは、弁護士にご相談ください。

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