医療法による広告規制
医療機関が行う広告については、患者の身体や生命に関わる可能性があること、加えて医療従事者側と患者側で情報格差が大きいことから厳しい規制があります。
広告全般について詳細な規制がありますが、今回はその一つである【ビフォーアフター広告】について取り上げて説明したいと思います。
Youtubeに解説動画を公開しましたので、ぜひご覧ください。
解説動画
ポイント解説
医療広告ではビフォーアフターは原則禁止
クリニックなど医療に関する広告で、ビフォーアフター写真のみを掲載するウェブサイト広告は、原則禁止されています。
例えばこんな術前・術後の写真
ビフォーアフター写真は、目に飛び込んでくる情報にインパクトがあり、見る人の興味をひきやすいという側面があります。
その反面、閲覧者は、自分も必ずアフター写真のようになれると勘違いしてしまい、安易に治療を受けてしまう可能性もあります。医療により得られる効果は、個々人によって異なりますし、必ずしも全員がアフター写真のようになれるわけではありません。
患者の方から、写真のようになれると考えて治療を受けたのに、写真のような結果にならなかった!と、医療機関と患者との間でトラブルが起きる事態も想定されます。
このような事態を防ぐためにも、ビフォーアフター写真のみの掲載は原則禁止されています。
限定解除の要件を満たせばOK
もっとも、要件を満たせばこのような広告も可能です。
写真のみですと、見る人に誤解を与えてしまいますが、適切な方法により写真を掲載するのであれば、見る人にとっても有益な情報となります。
1と2に関しては自由診療・保険診療のいずれでも、3と4に関しては自由診療の場合に必要となる要件です。
広告可能事項の限定を解除する、という意味で、「限定解除の要件」とよばれています。
限定解除の要件1
医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
難しい言葉で記載されていますが、要するに、病院のホームページ等、一般的なウェブサイトであればこの要件を満たします。
近年、インターネットによる広告が一般化し、ほとんどの人がウェブサイトで情報を入手するようになりました。よって、ウェブサイト上の広告は、見る人にとって有益な情報を入手するための手段であり、ウェブサイトによる広告規制は、他の広告よりも緩やかになっています。
ただし、Google、Yahooなどの検索エンジンや、サイト管理者に費用を支払うことで表示させるバナー広告や、リスティング広告などは、この要件を満たしません。
これらは、広告する側が、費用を支払い、意図的に表示させているものであり、必ずしも患者側の求める情報が含まれていない可能性があるためです。
もっとも、バナー広告のリンク先は、限定解除の要件1を満たすとしています(「医療広告ガイドラインに関するQ&A Q1-7」)。
患者が広告をクリックしてリンク先を閲覧する場合は、患者が自ら求めて表示させているウェブサイトに該当するためです。
よって、バナー広告のリンク先であれば、ビフォーアフター写真を掲載することが可能です。
また、医療広告ガイドラインの説明からすると、リスティング広告のリンク先も、限定解除の要件1を満たすことになりそうです。
限定解除の要件2
表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
患者側が医療機関に容易に問い合わせをすることができるよう、電話番号やメールアドレス等を記載しておかないといけない、という要件です。
これら問い合わせ先を記載しておくことで、見る者がより情報を入手しやすくなり、患者側で適切な判断ができる環境を作ることができ、トラブル防止にもなります。
限定解除の要件3
自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
自由診療におけるビフォーアフター写真を掲載する場合に必要となる要件です。
自由診療は、病院によって内容や費用が異なるため、治療の内容や費用等を具体的に掲載し、医療機関と患者とのトラブルを防止する必要があります。
よって、通常必要とされる治療内容や、標準的な費用、治療期間や回数などを記載をする必要があります。
患者側が見やすいよう、わかりやすく記載する必要があります。
限定解除の要件4
自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること
治療の利点や長所だけではなく、リスクや副作用も掲載することで、患者側に適切な判断をする機会を与える趣旨です。
リスクや副作用等もわかりやすく記載する必要があります。
限定解除の要件を満たしたビフォーアフター写真
以上の要件を満たしたビフォーアフター広告として写真を掲載する場合は以下のようになります。
OK例
こちらはあくまで例示ですが、患者等の誤解を生じないよう、適切かつ十分な情報を提供する必要があります。
他に併用した薬などがあれば、患者に誤解を生じないよう、その旨も記載しないといけません。
医療法に違反した場合はどうなるのか?
医療法に違反している場合、都道府県や市等は、医療機関に対し、広告の中止や是正を求めます。
医療機関が、広告の中止や是正に協力せず、強制力のある中止命令や是正命令などの行政処分を受けた場合、原則事案を公表するとされています(医療広告ガイドライン)。
また、厚生労働省は、閲覧者に対し、「医療機関ネットパトロール」の呼びかけを行っています。
「医療機関ネットパトロール」とは、医療法に違反している可能性がある医療機関の広告について、誰もが情報提供できる制度です。
医療に関する広告は、閲覧者から常に厳しい目を向けられているといったも良いかもしれません。
なお、加工や修正、編集をしたビフォーアフター写真を掲載することは、嘘の広告として禁止されており、以上の4つの条件を満たしていても、広告できません。虚偽の広告を掲載した場合、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金という刑事罰に処されてしまいますので、注意が必要です。
医療に関する広告は、詳細な規制が定められており、違反した場合には、不利益を被る可能性もあります。広告の掲載内容について、悩まれている医療機関の方は弁護士までご相談ください。