企業経営

公益通報制度は何が変わるの?~ざっくりとみる公益通報者保護法の改正ポイント~

  • 執筆者:弁護士船越雄一

公益通報制度とは?その目的とは?

 公益通報は、内部通報ともいわれる通り、国民生活の安心・安全を害するような事業者の不祥事に関し、労働者などが上司や事業者内の窓口、場合によっては行政機関や報道機関などの外部の機関に事業者内での違法行為を相談、通報し、その改善を促すものです。
 しかし、このような行為は、事業者からすれば自社の不祥事が明るみに出る可能性があるため、事業者において、当該通報を行った労働者等を解雇するなどの不利益取扱いをし、通報のもみ消しや通報しにくい環境を作り上げるなどのおそれがあります。
 これでは、通報者が不利益を避けるために通報を諦めてしまい、違法行為を抑止することができず、最悪の場合、国民生活の安心・安全を害する大事件に発展しかねません。
 そこで、公益通報者である労働者などに不利益を課すことを禁止し、「公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的」として定められたのが、「公益通報者保護法」です。
 と、これだけを見ると、“なんだ、結局、公益通報者を守るだけの制度なのか”、と思えそうです。
 しかしながら、事業者において、公益通報に適切に対応し、調査等を行う事で、社内に生じているあるいは生じるおそれのあるリスクの早期把握、対策、除去等の対応を図ることができます。
 そのため、事業者にとっても、健全・適正な企業活動を保護し、企業価値や社会的信用の維持・向上を図ることができるという側面があります。
 つまり、公益通報制度は、公益通報者の保護という目的だけでなく、事業者の健全・適正な企業活動を保護し、企業価値の維持・向上等にも資するという目的もあると考えられます。
 また、公益通報への対応がしっかりと整備されており、適切に運用され、公益通報に関する環境整備が整っている企業であれば、公益通報者も外部機関への相談ではなく、社内での相談・通報を行うようになり、突如外部から不祥事が発覚するという事を避けることができ、社内調査等を経て適時適切なタイミングで公表等を行うことができる可能性もあります。

 このような側面も考慮して、公益通報制度を考えれば、むしろ企業を守るという面からも重要な制度であると思えてくるのではないでしょうか。
 そして、そのように考えれば、公益通報を適切に受け入れ、調査等の対応を行えるよう、企業内での窓口設置や担当者の教育など通報対応への体制整備を進めることに前向きになれるのではないかと思います。
 なお、2022年6月1日施行の改正法に関しては、従業員数300人以下の企業には法的義務までは課されていませんが、今後義務化もないとは限りませんので、ある程度の規模の企業であれば、体制整備を進めておくのがよいと思います。

2022年6月1日以降、何が変わるの?

前置きが長くなってしまいましたが、2022年6月1日施行の改正法の内容をざっくりとまとめますと、以下のようになります。


PDFはこちら【令和2年改正のポイント(2022年6月1日施行)
©弁護士船越雄一

上記表の赤字部分が2022年6月1日施行にて新しく加わる内容となります。
大きく分けると、以下3点のポイントがあります。

1.公益通報への対応体制整備の義務化、行政措置の導入、守秘義務導入などの事業者側への規制強化
2.通報者として退職者や役員の追加、通報対象行為として行政罰の対象となる行為も追加、損賠責任免除などの公益通報者の保護の拡充
3.行政機関、報道機関等への外部通報に関する要件の緩和

1.事業者側への規制強化について

 事業者側の規制強化について少し細かくまとめますと、以下の対応が必要となります。

① 事業者において、公益通報対応業務(公益通報を受け、調査し、是正に必要な措置を行う業務)に対応する者を定めること、および、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること
 要は、公益通報窓口及び担当者を選任し、体制を整備しなければならないという事です。体制については、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_211013_0001.pdf)において詳細がまとめられておりますが、
〇窓口設置や独立性確保などの公益通報について部門横断的に対応する体制の整備
〇不利益取扱いの防止や範囲外共有の防止に関する措置などの公益通報者を保護する体制の整備
〇労働者等に対する教育・周知、内部規程の策定及び運用に関する措置などの公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
をとらなければなりません。
 なお、公益通報の窓口として顧問弁護士(その事務所を含みます。)を指定している企業もあると思いますが、それ自体許容されているものの、顧問弁護士が窓口という事で通報を躊躇するおそれもありますので、顧問弁護士とは別の事務所を窓口とすることも検討するとよいと思います。

② 前記①の措置義務に違反している事業者に対する助言・指導、勧告、勧告に従わない場合の公表措置の導入
 これは①の公益通報体制整備の義務を実効的にするために、行政として介入できるようにしたものであり、事業者としては違反しないように体制整備を行う必要があります。

③ 公益通報対応業務に従事する者に対する通報者の情報の守秘義務の導入
 公益通報対応業務の従事者として選任された方に対するなかなか厳しい義務となりますが、公益通報者を適切に保護し、法の目的を達成するためにはやむを得ないものとなります。なお、守秘義務違反の場合、30万円以下の罰金が定められています。

2.公益通報者の保護の拡充について

 この点については、改正前からの保護措置である解雇等の不利益取扱いの禁止に加えて公益通報者の損害賠償責任の免除が追加され、以下のとおり、通報の主体および客体も追加されています。

① 通報の主体の追加
 改正前は、在職中の労働者(派遣労働者を含みます)のみが保護対象でしたが、改正法施行後は、退職後(派遣終了後)1年以内の者役員(「
取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)」改正法2条1項柱書。ただし、退任者は含みません。)が公益通報の保護対象に追加されました。

② 通報の客体(どの行為が対象か)の追加
 改正前は、刑事罰の定めのある法令に該当する行為が対象でしたが、それだけでなく、行政罰(過料)の理由にされている事実も公益通報の対象行為として、追加されました。なお、消費者庁によると、2022年4月1日時点で、479の法律が公益通報の対象とされています。

3.外部通報に関する要件の緩和について

 この点については、改正前の要件を一部緩和し、例えば労働者による行政機関に対する公益通報の条件として、通報者の氏名や住所等を記載した書面を提出する場合の通報を追加しています。
 また、報道機関等への公益通報の条件として、個人の財産に対する損害(ただし、回復困難又は重大(「著しく多数の個人における多額の損害」改正法3条3号へ)なもの)を追加するとともに、通報者情報の漏えい可能性への真実相当性がある場合も追加されています。
 なお、前提の要件として、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的ではないことなどの要件もありますが、それらは改正前から変更はありません。

公益通報制度は企業を救う側面もあることを意識しましょう

 公益通報制度に関する法律は、規定上は労働者等の公益通報者を保護し、もって国民生活の安心・安全を守る内容になっていますが、冒頭に申し上げたとおり、企業の重大な不祥事を未然に防ぐ手段になる可能性もあり、仮に違法状態が発覚しても、それによる国民生活への被害を最小限に抑えるだけでなく、企業価値・信用の低下等の被害をも最小限に抑えることができる可能性もあります。
 企業にとってメリットのある制度であるという点を意識し、今回の改正法で対応措置等が義務化される事業者の皆様であればもちろんのこと、そうではない事業者の皆様においても、一度どういう制度であるのか確認、検討してみても良いのではないかと思います。
 弊所では、公益通報制度に関する講習なども承っておりますので、ご興味がある方は是非一度ご相談ください。

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