風評被害対策

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律

  • 執筆者:弁護士中澤 佑一

プロバイダ責任制限法が再び改正

2024年の通常国会にて、プロバイダ責任制限法の改正案が可決され、2024年5月17日に公布されました。
施行は、公布から1年以内となっており、改正の内容からしますと施行期限いっぱいの2025年5月1日あたりの施行になるのではないかと思われます。

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中澤佑一

実務に影響するところは少なく、もっと他にやるべきところがあるのでは?送信防止措置請求権(削除請求権)の創設はどこ行った?という思いもありますが、時代に合わせて改正するのはいいことです。
引き続き改正や制度の見直しを期待しましょう。

改正の内容

改正趣旨・概要

プロバイダ責任制限法は、発信者情報開示請求権やプロバイダの免責など実体的な権利関係を定める部分と、発信者情報開示命令という裁判に関する手続法の部分があります。
今回の改正は、これらの実体的権利関係、手続関係部分を変動させるものではなく、大規模なプラットフォーム(ウェブサイト)を運営する事業者に対して行政的な規制を追加的に加えるものです。

大規模なSNSやウェブサイトは、誹謗中傷などの権利侵害が多発し、まさに加害者にとってのプラットフォームともなりうることから、被害救済のための一定の規制を課すというのが今回の改正の趣旨といえます。

そして、裁判実務的にはこれが一番大きいところですが、法律の名称も従来の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」から、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」に改められることになりました。

大規模プラットフォーム事業者に対する規制

規制対象となる事業者は?

改正法では、「大規模特定電気通信役務提供者」という用語を新たに作り、これに対して義務を課しています。
「大規模特定電気通信役務提供者」の定義は、改正法2条14号で「第21条第1項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう。」となっており、具体的には総務大臣による指定に委ねられています。
総務大臣による指定の基準は、1か月あたりの発信者数が総務省令で定める数を超えるなどの、発信者数ベースが採用されています(改正法21条1項1号)。

なお、基準に関する具体的な定めを行うことになる総務省令が未制定ですが、改正法の条文の書きぶりや改正趣旨からしますと、大規模特定電気通信役務提供者に指定されるのは、「X」、「Youtube」、「Instagram」などのGAFA系の大規模サイトや、大手の匿名掲示板といったコンテンツプロバイダの運営者が指定されると思われます。

大規模特定電気通信役務提供者として総務大臣から指定を受けた事業者は、運営者の名称や住所、法人の場合にはその代表者の氏名を等を届け出ることが義務付けられます(改正法22条)。

対応の迅速化のための措置

大規模特定電気通信役務提供者は、、削除対応の迅速化を図るための措置として次の措置を講じなければなりません。

  • 削除手続に関する窓口の整備・公表(改正法23条)
  • 削除の申出に関する迅速な調査の実施(改正法24条)
  • 侵害情報調査専門員の選任・届出(改正法25条)
  • 削除の申出者に対する結果の14日以内の通知(改正法23条)

手続の透明化に関する措置

また、大規模特定電気通信役務提供者は、削除手続の透明化として次の措置を講じなければなりません。

  • 送信防止措置の実施に関する基準等の公表(改正法27条)
  • 送信防止措置を講じた場合の発信者への通知(改正法28条)
  • 送信防止措置の実施状況等の公表(改正法27条)

規制の実効性を図るための措置

これらの規制の実効性を図るため、総務大臣による勧告及び命令(改正法31条)、違反事業者等に対する罰金・過料(改正法36条~39条)も導入されます。

実務への影響は?

権利侵害の被害者

今回の改正は、インターネット上で発生した権利侵害の被害者にとってはあまり影響はありません。
これまで削除が拒否されていたようなものの削除が可能になったり、削除が容易になったりということは無いでしょう。
もっとも、削除請求に対する対応結果を原則として14日以内に通知するということになっていますので、いつまでたっても回答がなく待たされるということは減ってゆくものと思われます(ただし、現在も回答がない=削除しないという場合が多いのですが)。

実務家目線で一番期待しているのは、改正法22条の届出の関係です。
大規模特定電気通信役務提供者に指定されると、運営者や代表者の届出が必要となります。現在、運営実体を明らかにしていない大規模匿名掲示板サイトがいくつかあり、これらのサイトに対して削除や発信者情報開示の裁判を行おうとする場合にハードルがありますので、この種のサイトが大規模特定電気通信役務提供者として指定してもらえれば、権利救済が促進する可能性があります。

ウェブサイト運営者

前述のように、大規模特定電気通信役務提供者に指定されると、代表者の届出が必要となります。現在、運営実体を明らかにしていない大規模匿名掲示板サイトがいくつかありますが、これらのサイトは指定を受けると現在のような運営方針は難しくなる可能性があります。
また、Googleなど、削除の依頼にあ地して「問題があったと判断し削除を講じる場合のみ結果を通知します」といった対応をしている事業者もありますが、削除請求に対する対応結果の通知が義務となったためワークフローの変更が求められるでしょう。

法律の略称問題

法律名称の変更に伴い定着している「プロバイダ責任制限法」「プロ責法」といった略称が法律の名称と対応しなくなってしまいます。
新たな略称としては「情報流通プラットフォーム対処法」「情プラ法」などが出ていますが、大規模特定電気通信役務提供者(プラットフォーム事業者)以外の事業者に対して使う場面が多い法律ですので、違和感ありますね。

参考資料

改正法の条文(e-gov)

(総務省資料)特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案の概要

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