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やってみた動画

  • 執筆者:弁護士椿良和

弁護士 椿  良 和

[pullquote-left]1 総 論[/pullquote-left]

「やってみた動画」について、このブログでは、動画投稿サイトで他人の著作物を利用する動画と定義して検討をしたいと思います。

YouTube、ニコニコ動画、ツイキャス、ふわっちなどの動画投稿サイトによる著作物の利用の場合、当該著作物に関する権利(著作権、著作者人格権、著作隣接権)の侵害が問題となります。

これから、やってみた動画のうち動画投稿サイトによくアップされている主要なカテゴリについて、問題となりうる関係者とその権利について確認した上で、その法的問題をみてみます。

[pullquote-left]2 やってみた動画で問題となる関係者とその権利[/pullquote-left]

動画投稿サイトにおけるやってみた動画の関係者について、普段あまり考えたことがないと思いますが、分析的に検討すると、以下のとおり、多くの関係者の権利が問題になることが分かります。

まず、踊ってみた動画で問題となる関係者とその権利として、踊りの振付師(著作権,著作者人格権)、音楽の作曲家(著作権、著作者人格権)、音楽に歌が入っていれば、歌の作詞家(著作権,著作者人格権)、音源がCDなどであれば、CDなどのレコード会社(著作隣接権)と歌手・演奏者などの実演家(著作隣接権,実演家人格権)が挙げられます。

次に、歌ってみた動画で問題となる関係者とその権利として、音楽の作曲家(著作権、著作者人格権)、歌の作詞家(著作権、著作者人格権)、音源がCDなどであれば、CDなどのレコード会社(著作隣接権)と演奏者などの実演家(著作隣接権、実演家人格権)が挙げられます。

さらに、演奏してみた動画で問題となる関係者とその権利として、音楽の作曲家(著作権,著作者人格権)、音楽に歌が入っていれば、歌の作詞家(著作権、著作者人格権)、音源がCDなどであれば、CDなどのレコード会社(著作隣接権)と歌手・演奏者などの実演家(著作隣接権、実演家人格権)が挙げられます。

なお、歌手等の実演家の著作隣接権は、レコード会社等に譲渡されているのが一般的です。

[pullquote-left]3 著作物に関する権利の種類[/pullquote-left]

著作物に関する権利として、著作権、著作者人格権、著作隣接権があります。

著作権は、著作物の利用に関する財産的な権利の総称であるところ、その権利として、複製権(著作権法(以下単に法といいます。)21条)、上演権・演奏権(法22条)、上映権(法22条の2)、公衆送信権・伝達権(法23条)、口述権(法24条)、展示権(法25条)、頒布権(法26条)、譲渡権(法26条の2)、貸与権(法26条の3)、翻訳権・翻案権(法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(法28条)があります。

著作者人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利であるところ、公表権(法18条1項)、氏名表示権(法19条1項)、同一性保持権(法20条1項)があります。

著作隣接権(法89条1項~4項)は、著作物の創作ではないものの、著作物を公衆に伝達する重要な役割を担っている者に与えられている権利であるところ、財産的な利益を保護する権利が認められており、実演家には人格的利益を保護する権利が認められています(法90条の2、法90条の3)。

このように、著作権、著作者人格権、著作隣接権といっても、個別の事案に応じて、様々な権利が問題になります。

なお、各権利の内容について、本ブログにおいて、別の回で、具体的に説明したいと思います。

[pullquote-left]4 踊ってみた動画[/pullquote-left]

⑴ ダンスの振付けについて

踊ってみた動画で思い出すのは、星野源氏の「恋」とAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」です。当時は、社会現象といえるほど、これらの音源ないし曲や歌にあわせて、誰しもが踊っていた気がします。ここで、問題となるのが、以前のブログにも触れましたが、ダンスの振付けは著作物に当たるかという点です。つまり、ダンスの振付けが著作物に該当しなければ、振付師に対する著作権侵害の問題は生じません。

「恋」と「恋するフォーチュンクッキー」についてみると、どちらも特定の曲や歌にあわせて振付けがなされているところ、曲や歌から離れて一つ一つの振付けを切り取れば、単純なステップや動作であるとして、創作性がなく著作物ではないと判断される可能性があります。しかし、私見としては、特定の曲のメロディや歌の単語・意味を踏まえて振付けがなされることを考慮すれば、特定の曲と歌を前提としてステップや動作の一連のまとまりに、著作物としての創作性が認められるというべきです。

そうすると、動画投稿サイトにおいて、著作権者の許諾なしに、これらの音源を流して振付けをコピーして踊った動画を投稿した場合には、当該振付けをした振付師(「恋」はMIKIKO氏、「恋するフォーチュンクッキー」は、パパイヤ鈴木氏)の公衆送信権(著作権法23条)を侵害するものと考えます。

また、ダンスの振付けを改変した場合には、翻案権(法27条)や同一性保持権(法20条1項)の侵害が問題となりえます。

なお、ダンスの振付けについて、その著作権者の氏名を公表することは少ないように思いますが、氏名表示権(法19条)の侵害も問題になります。

⑵ 音源を利用する場合

踊ってみた動画を撮影する際に、CD、レコード、ミュージックビデオやダウンロードした音源を利用した場合には、当該音源の製作者の送信可能化権(法96条の2)の侵害が問題となるため、著作権管理団体とは別に、レコード会社等の許諾を得た音源などを用いる必要があります。

なお、東京地判平成28年12月20日(平28(ワ)第34083号 著作隣接権侵害差止等請求事件)は、業務用通信カラオケ機器の製造販売等を業とする会社が、カラオケ店でカラオケ音源を用いて歌唱を行っている様子をYouTubeで動画配信した行為が送信可能化権の侵害に当たると主張して、その差止め及び電磁的記録の消去を求めた事案において、当該行為が送信可能化権の侵害に当たるとして、その請求を認めています。

[pullquote-left]5 歌ってみた動画[/pullquote-left]

⑴ 歌

歌ってみた動画なので、当然「歌」を歌うわけで、その「歌」に関する権利侵害が問題となります。

例えば、AKBの「恋するフォーチュンクッキー」であれば、作詞家である秋元康氏に歌の著作権があるところ、動画投稿サイトへの歌唱動画の投稿により、公衆送信権(法23条1項)の侵害が問題となります。

また、動画において作詞家を表示しなければ、氏名表示権(法19条)の侵害が問題となりえますし、歌を改変した場合には翻案権(法27条)や同一性保持権(法20条)の侵害が問題となりえます。

ただし、著作権管理団体であるJASRACや株式会社NextToneと包括的な利用許諾契約を締結している動画投稿サイトでは、歌の利用について、当該著作権管理団体が受託している作詞家の歌であれば、許諾の範囲内に限り、権利侵害を問われません。

⑵ 曲を演奏する場合

曲を演奏してみた場合には、演奏しているその「曲」に関する権利侵害が問題となります。

例えば、TM・NETWORKの「Get Wild」であれば,作曲家である小室哲哉氏に曲の著作権があるところ、動画投稿サイトに演奏動画を投稿することにより、公衆送信権(法23条1項)の侵害が問題となります。

また、動画において作曲家を表示しなければ、氏名表示権(法19条)の侵害が問題となりえますし、曲を改変した場合には翻案権(法27条)や同一性保持権(法20条)の侵害が問題となりえます。

なお、アカペラの場合でも、曲のメロディに合わせて歌を歌うのが通常ですから、当該曲の著作権者の許諾が必要となりますのでご注意下さい。

ただし、著作権管理団体であるJASRACや株式会社NextToneと包括的な利用許諾契約を締結している動画投稿サイトでは、曲の利用について、当該著作権管理団体が受託している作曲家の曲であれば、許諾の範囲内に限り、著作権侵害を問われません。

⑶ 音源を利用する場合

利用する音源につき、送信可能化権(法96条の2)の侵害が問題になることは前述のとおりです。

[pullquote-left]6 演奏してみた動画[/pullquote-left]

演奏してみた動画でよくあるのが、特定の曲について、ギター、ベースやドラムなどの楽器を演奏する動画ですが、私的には難易度が比較的高い演奏をそつなくこなす動画が大好物です。

この場合、動画投稿サイトに演奏動画を投稿することにより、公衆送信権(法23条1項)の侵害が問題となります。

また、動画において作曲家を表示しなければ氏名表示権(法19条)が、曲を改変したら翻案権(法27条)や同一性保持権(法20条)の侵害が問題となりえます。

ただし、著作権管理団体と包括的な利用許諾契約を締結している動画投稿サイトでは、特定の曲について、その著作権者から包括的な利用許諾が得られている場合があります。

なお、例えば、ドラムをやってみた動画の場合で、メロディがないと音楽として物足りないなどとして、ギターなどのメロディにつき、第三者が作成した音源を使った場合には、送信可能化権(法96条の2)の侵害が問題となります。

[pullquote-left]7 さいごに[/pullquote-left]

やってみた動画について、現在、エンターテインメントの一つとして定着しているものと思いますが、インターネットの動画配信サイトへのやってみた動画の投稿には、著作権上の問題があります。

平沢進氏のように、著作物の二次利用に比較的寛容と思われるアーティストもいますが、通常は、著作物の利用について著作権が問題となります。

そして、特定の著作物につき、著作権管理団体がその権利を管理していれば、話は早いですが、そうでない場合には、当該著作物の著作権者を調査し、その著作権者から許諾を得なければなりません。

現在では、動画投稿サイトが著作権管理団体と包括的利用許諾契約を締結していますが、さらに踏み込んで、レコード会社、ダンスの振付師、演劇やその他様々な種類のエンターテインメントに関して、動画投稿サイト側で著作権問題をクリアするシステムを構築し、動画投稿者が簡易な手続きの下で動画投稿をすることができるようになれば、著作物に関する権利者に適切な利益が配分され、かつ、動画配信から様々なエンターテインメントが生まれるきっかけを作ることができるのではないでしょうか。

ただし、前提として、動画投稿者も、日ごろから楽しんでいる著作物には著作権、著作者人格権及び著作隣接権といった権利があることを十分に認識し、理解してもらえればと思います。

以 上

(参照HP)

1 JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)

①商用配信 https://www.jasrac.or.jp/info/network/business/index.html

②注意事項 https://www.jasrac.or.jp/info/network/business/caution.html

③動画共有サイトでの音楽利用

https://www.jasrac.or.jp/info/network/pickup/movie.html

④作品データベース検索サービス http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/

2 株式会社NextTone

①インターネット上で音楽を利用

https://www.nex-tone.co.jp/copyright/users/int.html

②作品検索データベース利用規約

https://search.nex-tone.co.jp/terms;jsessionid=E866A642B555325AD055FD23FAAD84BB?0

3 YouTube

①利用規約  https://www.youtube.com/t/terms

②著作権についてのルール

https://www.youtube.com/howyoutubeworks/policies/copyright/

③YouTubeヘルプ(著作権と著作権管理>著作権とは)

https://support.google.com/youtube/answer/2797466?hl=ja

4 ニコニコ動画

①Niconico規約 https://account.nicovideo.jp/rules/account

②権利侵害に関する動画投稿ガイドライン

http://ex.nicovideo.jp/smile/guideline/copyright.html

③niconico許諾楽曲検索 https://license-search.nicovideo.jp/

5 ふわっち

①利用規約 https://whowatch.tv/terms-of-service.html

②ふわっち配信ガイドライン https://whowatch.tv/live-guideline.html

③ふわっち ホーム>ヘルプ・お問合せ>配信 https://whowatch.tv/help/40

6 ツイキャス

①利用規約 https://twitcasting.tv/indexlicense.php

②ツイキャスヘルプ ツイキャス上での楽曲配信

https://twitcasting.tv/helpcenter.php?pid=HELP_MUSIC

③ツイキャスヘルプ 音楽配信について教えてください

https://twitcasting.tv/helpcenter.php?pid=230

7 平沢進オフィシャルサイト

https://susumuhirasawa.com/

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