知的財産

物の名称等の使用とパブリシティ権侵害

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  • 執筆者:弁護士椿良和
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弁護士 椿 良和

[pullquote-left]1 はじめに[/pullquote-left]

 法律上、動物も物に該当しますが、例えば、競走馬などの動物の名称や肖像を利用した商品を販売する場合における法的問題について、判例をふまえ検討します。

[pullquote-left]2 判例(ギャロップレーサー事件)[/pullquote-left]

 当職は、学生時代にダービースタリオン(「ダビスタ」)が流行った世代ですが、競走馬に関して、以下のような訴訟が問題となりました。
具体的には、競走馬の所有者が、当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作、販売した業者に対し、物のパブリシティ権の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作、販売等の差止請求、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案です。

⑴ 地方裁判所の判断(名古屋地方裁判所平成12年1月19日判決)

 地方裁判所は、著名人に認められるパブリシティ権は「人格権とは別個独立の経済的価値」であることを前提に、パブリシティの価値を有するものを「著名人」に限定する理由はないこと、「物の名称等がもつパブリシティの価値は、その物の名声、社会的評価、知名度等から派生するもの」であり、その物の所有者に帰属する「財産的な利益ないし権利」として保護すべきであることから、物の名称等の顧客吸引力のある情報の有する経済的利益ないし価値を支配する権利は、「広義の『パブリシティ権』として、保護の対象」とすることができるなどと判示し、商標法等による保護が不十分であることも考慮して、物のパブリシティ権侵害を認めました。なお、物に係る広義のパブリシティ権は、「所有権とは別個の性質の権利」としたものの、「所有権と離れて観念することはできない」と判示しました。

⑵ 高等裁判所の判断(名古屋高等裁判所平成13年3月8日判決)

 高等裁判所も、「重賞レースなどにおいて優勝する競争に強い競走馬」に著名人と同様の顧客吸引力があることを認めた上で、「現に、競走馬の所有者が、ゲームソフトを製作し、販売する会社との間で、その所有する競走馬の名称等の使用を許諾するにつき、使用料の支払を受ける旨の契約を締結している例があること」からも、当該紛争の時点において、「物のパブリシティ権を一定の要件の下に承認し、これを保護するのを相当とする社会的状況が生まれている」こと、「馬主が有する競走馬の有する名声、社会的評価、知名度等から生じる顧客吸引力という経済的利益ないし価値を保護するには、商標法による保護のみでは十分とはいえ」ないことなどを理由に、「G1レースに出走して優勝したことがある競走馬」にパブリシティ権を認め、不法行為に基づく損害賠償を認めました。

⑶最高裁判所の判断(最高裁平成16年2月13日第二小法廷判決)

 最高裁は、競走馬の名称使用に関する「契約締結は、紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど、様々な目的で行われることがあり得る」のであり、「契約締結の実例があることを理由として、競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない」こと、現行法上、「物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っている」こと、「その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている」ことに言及した上で、「各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではな」いとして物のパブリシティ権を否定し、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については、「違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点」では肯定することはできないものとして、不法行為の成立を認めませんでした。

[pullquote-left]3 法律による保護が認められるか否か[/pullquote-left]

 ギャロップレーサー事件の地裁や高裁では、最高裁と異なり、物のパブリシティ権が他の法律では十分に保護されないことにも言及しています。

⑴ 商標法

 物の名称等について、それが指定商品又は指定役務について商標登録された場合にのみその範囲において商標法により保護されます。

⑵ 不正競争防止法

物の名称等について、それが需要者の間に広く認識された商品等表示に該当し、かつこれと同一又は類似の商品等表示を使用する等して商品又は類似の商品等表示を使用する等の行為がされる場合に限り、不正競争防止法により保護されます。

⑶ 著作権法

 物の名称等について、思想、感情の表現でなく、著作物性が認められないため、著作権法(著作隣接権を含む。)では保護されません。

[pullquote-left]4 まとめ[/pullquote-left]

 以上のとおり、平成16年の判例において、競走馬にはパブリシティ権が認められないと判断されたところ、その後、平成24年の判例(ピンク・レディー事件)において、人のパブリシティ権が「人格権に由来するもの」として認められたことから、物にはいわゆるパブリシティ権は認められないものと考えられます。
ただし、物の名称等の使用について、当事者間の合意により使用料の支払いをすることは可能であり、当該合意は有効であると考えられています。
また、物の名称等の使用について、「契約締結の実例」の他に種々の事情がある場合で、「違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確」である場合には、必ずしも不法行為の成立を否定するものではないといえるところ、平成24年の判例(ピンク・レディー事件)が判示した場合、つまり、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合には、不法行為が認められる可能性はないわけではありません。例えば、昨年のジャパンカップで優勝したGⅠ9冠馬のアーモンドアイのプロマイド写真を販売するとか(①)、オグリキャップの画像が大きくプリントされた筆箱を販売したりとか(②※ただし、亡くなった競走馬の経済的利益ないし価値につきその元所有者が利益侵害の主張ができるか否かが別途問題となりえます。)、演歌の宣伝としてHP広告にキタサンブラックの名称と肖像を用いる(③)などした場合には、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするとして、不法行為が認められる余地があると思われます。
さらに、商標法等の保護が及ばない場合で物の名称等を無断で使用した場合でも、物の所有者との紛争に巻き込まれるリスクは完全には否定できません。
よって、競走馬等の物の名称や肖像について、その顧客吸引力に着目して利用する場合には、その所有者から同意を得た方が無難といえます。

以 上

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