知的財産

ダンスと著作物(その②)

  • 執筆者:弁護士椿良和

弁護士 椿 良和

創作性について,一般論として,作成者の個性が表現されており,それがありふれた表現ではないことが求められているといえます。
ここで,ダンスの振付けに関する裁判例をみると,創作性について,裁判所は,当該動作の性質を踏まえて,以下のように判断しています。

[pullquote-left]① 日本舞踊について[/pullquote-left]

裁判例(福岡高判平成14年12月26日)では,日本舞踊の振付けの著作権が問題となりました。
特定の会社に作詞・作曲してもらった音曲に振り付けられた舞踊について,A流のために作られた創作音曲に独自の振付けがなされたものであり,同流派を象徴する舞踏であるところ,振付者の思想,感情を創作的に表現したものとして,著作物たりうる創作性を認めています。

また,①日本民謡舞踊大賞コンクールに出品するために特定の沖縄民謡に振り付けられた舞踊(最優秀賞・内閣総理大臣賞などを受賞),②同じくコンクールに出品するために特定の福岡県民謡に振り付けられた舞踊(文部大臣賞などを受賞),③同じくコンクールに出品するために特定人が作詞・作曲した音曲に振り付けられた舞踊(最優秀賞・内閣総理大臣賞などを受賞)について,伝統芸能や民俗芸能として手本となる踊りであるものの,それとは離れて独自性のある振付けがなされたものであり,日本民謡舞踊大賞コンクールで受賞する等,客観的にも芸術性が高いところ,振付者の思想,感情を創作的に表現したものとして,それぞれ著作物たりうる創作性を認めています。

 

[pullquote-left]② キラキラぼしについて[/pullquote-left]

裁判例(東京地判平成21年8月28日)では,被告発行のDVD付き書籍が,原告発行の「DVDとイラストでよくわかる!手あそびうたブック」と題するDVD付き書籍に収録された振付けなどが著作物に該当するかが問題となりました。
原告が独自に創作したと主張する振付けは,「キラキラひかる」との歌詞に合わせて両手を頭上に挙げて両手首を回す,「おおきなほしは」の歌詞に合わせて両手を挙げたまま左右に振る,「たのしいうたを」の歌詞に合わせて手を順番に胸の前で交差させ首を左右に揺らす,「うたっているよ」の歌詞に合わせて手を順番に口の横に当て,首を左右に揺らす,「ピカピカひかる」の歌詞に合わせて両手を胸の高さに挙げて両手首を回す,「ちいさなほしと」の歌詞に合わせて両手を挙げたまま左右に振るというものでした。

裁判所は,当該歌詞は,「キラキラ光る大きな星が,ピカピカ光る小さな星と一緒に,楽しい歌を歌っているという内容のものであり,この歌詞に合わせた振付けを考えた場合,星がキラキラあるいはピカピカと光る様子,キラキラ光る大きい星とピカピカ光る小さな星との対比,楽しい歌を歌う様子を表現する振付けになるものと解される」とした上で,本件振付けについて,以下の理由などにより,創作性を否定し,著作物であることを認めませんでした。

  • 「キラキラひかる」や「ピカピカひかる」の歌詞に合わせて「両手首を回すことは,星が瞬く様子を表すものとして,誰もが思いつくようなありふれた表現」であること
  • 「キラキラひかるおおきなほし」と「ピカピカひかるちいさなほし」の対比として,前者では両手を高く上げて腕を大きく振り,後者では胸の高さに挙げた両手を小さく振ることも「大小の比較として自然に思いつく,ありふれた表現」であること
  • 「うたっているよ」の歌詞に合わせて手を順番に口の横に当て,首を左右に揺らすことも「歌っていることを示す動作として,ありふれた表現」であること

[pullquote-left]③ 社交ダンスについて[/pullquote-left]

裁判例(東京地判平成24年2月28日)では,映画「Shall we ダンス?」のダンスシーンで用いられた社交ダンスの振り付けの創作性が問題となりました。
ここで,裁判所は,「社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるもの」であるとした上で,以下の理由などにより,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体について,著作物性を否定しています。

  • 「基本ステップやPVのステップ等の既存のステップ」は,「ごく短いもの」であり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられる「ごくありふれたもの」であること
  • 「基本ステップの諸要素にアレンジを加えること」も,一般的に行われていることであり,基本ステップが「ごく短いもの」で「ありふれたもの」であるといえることから,「アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなもの」は,基本ステップの範ちゅうに属する「ありふれたもの」であること
  • 「新しいステップや身体の動き」は,既存ステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる「短いものにとどまる」といえるから,このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,「本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当ではない」こと

そして,「社交ダンスの振り付け」とは,「基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すこと」であるとした上で,社交ダンスの振り付けが著作物に該当するには,「それが単なる既存のステップの組み合わせにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当」であると判示しました。

その理由として,「社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組み合わせに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである」としています。

なお,裁判所は,21の振り付けについて,ステップなどの組み合わせのみに着目し,音楽とステップの結びつきを一切考慮せずに,個別に検討した上で,振り付けの全てに著作物性を認めず,原告の請求を棄却しています。

 

[pullquote-left]④ フラダンスについて[/pullquote-left]

裁判例(大阪地判平成30年9月20日)では,フラダンスの著作物性が問題となりました。
ここで,「ハワイの民族舞踊であるフラダンスの特殊性」は,「楽曲の意味をハンドモーション等を用いて表現すること」にあり,「フラは歌詞をボディランゲージで表現する」とか,「ハンドモーションで歌詞の意味を表現し,ステップでリズムをとりながら流れを作る」というのがフラの基本であるとされています。
つまり,「フラダンスの振付け」は,「ハンドモーション」と「ステップ」から構成されるところ,ハンドモーションはいわば手話のようなもので手を中心に上半身を使って歌詞の意味を表現するとされ,他方で,ステップは典型的なものが存在し(入門書では合計16種類が紹介されています。),覚えたら自由に組み合わせて自分のスタイルを作ることができるとされています。
以上を前提に,裁判所は,以下のとおり,細かく場合分けをして,創作性(著作物性)などについて,判断をしています。

(ハンドモーションについて)

  • 特定の楽曲のある歌詞部分の振付けについて,「当該歌詞から想定されるハンドモーションがとられているにすぎない場合」には,「既定のハンドモーションを歌詞に合わせて当てはめたにすぎない」から,その個所の振付けに創作性(作者の個性)が認められないこと
  • ある歌詞部分の振付けについて,「既定のハンドモーションどおりの動作がとられていない場合や,決まったハンドモーションがない場合」であっても,「同じ楽曲又は他の楽曲での同様の歌詞部分について他の振付けでとられている動作と同じもの」である場合には,当該歌詞の表現として同様の動作をとることについて,創作性が認められないこと
  • ある歌詞部分の振付けについて,「既定のハンドモーションや他の類例と差異があるもの」である場合でも,それらとの差異が「動作の細かな部分や目立たない部分での差異にすぎない場合」「ありふれた変更にすぎない場合」(例えば動作を行うのが片手か両手かとか,左右いずれの手で行うかなど)にも,創作性を認めることはできないこと
  • 「一つの歌詞に対応するハンドモーションや類例の動作が複数存する場合」で「踊り全体のハンドモーションの組み合わせが,他の類例に見られないものとなる場合」について,「ハンドモーションが既存の限られたものと同一であるか又は有意な差異がなく,その意味でそれらの限られた中から選択されたにすぎないと評価し得る場合」にはその選択の組合せを作者の個性の表れと認めることはできないし,配列についても歌詞の順によるのであるから,創作性を認めることはできないこと
  • 一つの歌詞に対応する振付けの動作が「歌詞から想定される既定のハンドモーション」や「他の類例」と「有意な差異」がある場合には,当該振付けに独自のもの又は既存の動作に有意なアレンジを加えたものといえるから,創作性が認められること
  • 一つの歌詞に対応する振付けについて,「動作自体はありふれたもの」でも,「それを当該歌詞の箇所に振り付けることが他に見られない」場合には,「特定の楽曲の特定の歌詞を離れて動作自体に作者の個性を認めるものではないから,個性の発現と認める範囲が不当に拡がることはない」と考えられるため,創作性を認めるのが相当であること
  • 一つの歌詞について,「歌詞の解釈が独自であり,そのために振付けの動作が他と異なるものとなっている場合」には,「振付けの動作に至る契機が他の作者には存しない」ため,「当該歌詞部分に当該動作を振り付けたこと」について,創作性が認められること
  • これに対し,「歌詞の解釈が言葉の通常の意味からは外れるものの,同様の解釈の下に動作を振り付けている例が他に見られる場合」には,「当該解釈の下では当該振付けとすることがありふれている場合」には,創作性を認めることはできないこと

 

(ステップについて)

  • ステップについては,「基本的にありふれた選択と組合わせにすぎない」ため,創作性が認められないこと
  • ステップが既存のものと「顕著に」異なる新規なものである場合には,ステップ自体の表現に創作性が認められるべきであること
  • 「ハンドモーションにステップを組み合わせることにより,歌詞の表現を顕著に増幅したり,舞踊的効果を顕著に高めたりしていると認められる場合」には,「ハンドモーションとステップを一体のもの」として,当該振付けの動作に創作性を認めるのが相当であること

 

(著作物性が認められる範囲について)

  • 楽曲の振付けとしてのフラダンスは,作者の個性が表れている部分とそうではない部分が相俟った「一連の流れとして成立するもの」であるため,ひとまとまりとしての動作の流れを対象とする場合には,舞踊として成立するものであり,その中で,「作者の個性が表れている部分が一定程度にわたる場合」には,その「ひとまとまりの流れ全体」について,舞踊の著作物性を認めるのが相当であること

 

(侵害対象について)

  • 「フラダンスに舞踊の著作物性が認められる場合」に,その「侵害」が認められるためには,侵害対象とされたひとまとまりの上演内容に,「作者の個性が認められる特定の歌詞対応部分の振付けの動作が含まれること」が必要なことは当然であり,加えて,作者の個性が表れているとはいえない部分も含めて,「当該ひとまとまりの上演内容について,当該フラダンスの一連の流れの動作たる舞踊としての特徴が感得されること」を要すると解するのが相当であること

 

次回は,ストリートダンスなどの振り付けの創作性(著作物性)について,上記裁判例を踏まえて具体的に検討してみます。

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