IT法

”なりすまし”をされない権利~アイデンティティ権

  • 執筆者:弁護士中澤 佑一

SNSでのなりすまし被害

TwitterやInstagramなどのSNSにおいて、勝手に自分になりすましたアカウントが作られる被害が増えています。
なかには顔写真を無断で使用しているような悪質なものもあります。

このような被害にあった場合にはどのように対処したらよいのでしょうか。

なりすましの被害にあったときの一般的な対処方法

実名や顔写真が無断で使われているとき

実名や顔写真が無断で使用されている場合には、「氏名権」「肖像権」の侵害を主張してアカウントの凍結や削除をSNSの運営会社に求めることが考えられます。
実名の場合は同姓同名の可能性などもあり、若干説明が難しい場合もありますが、顔写真の無断使用の場合は、SNSの違反報告フォーム、なりすまし報告フォームから申請することで対処される可能性が高いです。

また、なりすまし犯人を突き止めたい場合には、フォームから違反報告をするのではなく、SNSの運営会社宛てに情報開示の裁判を提起することになります。なお、現在日本で普及しているSNSの運営会社の多くは海外法人であり裁判には専門的な知識が必要です。犯人を突き止めたい場合には、私たち専門の弁護士にご相談ください(相談は無料です)。

個人情報等が公開されてしまっているとき

住所などの個人情報や公開したくない私生活上の情報が公開されている場合、プライバシー侵害を理由に、アカウントの凍結・削除を求めてゆくことになります。
この場合も、削除であればフォームから違反報告、犯人を調べたければ裁判となります。

問題のある発言がなされているとき

なりすましのアカウントが「~~で万引きをした」などの発言を行っている場合、リプライ等で他のアカウントに絡んで卑猥な発言をしているような場合、自分がそのような行為をする人物であると他人から思われてしまいます。
よって、このような場合には、法的には名誉毀損に当たると考えられます。
もっとも、名誉毀損については、法的に微妙な判断が絡むことから、SNS上の違反報告フォームからではなかなか対応されないのが現状です。
このような場合には、裁判をすることになってしまうのが一般的です。

大きく報道された「アイデンティティ権」判決

単純ななりすましは合法??


さて、このようになりすましへの対処方法を見てくると、実名や顔写真を使用せず、個人情報の公開や問題発言も行っていない場合には、対処方法がないように思えます。
実際、従来の裁判例の理論では、このような「単になりすましているだけ」という事案では、侵害された権利はないとされてきました。

しかし、なりすまされた被害者からすれば、非常に気持ちの悪いものであり、今後どのような発言がなされるのかと不安も大きいところです。

なりすまされない権利=アイデンティティ権

そこで、私たちは、「なりすまされない権利」というものが認められるべきだと考え、「アイデンティティ権」という概念を新たに主張しています。
この「アイデンティティ権」の主張は、実際の裁判例でも一部取り入れられ、その判決は大きく報道され、判例雑誌にも掲載されました(大阪地裁平成28年2月8日判決)。

、アイデンティティ権の考え方を取り入れた初の判決であるこの大阪地裁判決では、アイデンティティ権の侵害となる要件として、なりすましによって「平穏な日常生活を送ることが困難となるほど」に強度な精神的苦痛を受けること、という厳格な基準が示されました。
初の判断ということで画期的な判決でしたが、これでは要件が厳しすぎて、実際には使いづらいというのが率直な感想です。

2件目の「アイデンティティ権」判決で一歩前進

しかし、今年に入り、2例目の判決が下されました(大阪地裁平成29年8月30日判決)。そして、この2例目の判決では、アイデンティティ権侵害の要件を次のように示されました。

「なりすましの意図・動機、なりすましの方法・態様、なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して、当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。」

この2例目の判断は、1例目の判断よりも緩やかであり、この判決によってアイデンティティ権が実際上も使える権利になってきたと私は見ています。

なりすまし問題についてもご相談ください

この記事で紹介しアイデンティティ権判決は2例とも当事務所で担当した事例です。
私たちは、なりすましの問題について、積極的に取り組み、アイデンティティ権のような新たな概念の構築も含め対処方法の研究も進めています。

お困りの場合には、ぜひご相談ください。

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