知的財産

ダンスと著作物(その③)

  • 執筆者:弁護士椿良和

弁護士 椿 良和

[pullquote-left]1 ストリートダンスとは?[/pullquote-left]

ストリートダンスとは,文字通り,路上で踊られたことから始まったものとされており,基本的に,権利関係とは無関係な自由なものであったといえます。

ストリートダンスには,ヒップホップ,ハウス,ロック,ブレイキング,ポップやアニメーション,ジャズなどの種類があるところ,各ジャンルには,基本的なステップや体の動きなどがあります。

例えば,ハウスダンスでは,ツーステップ,パドブレ,スケート,トレイン,ファーマーなど基本ステップが複数存在するところ,主に,ステップを中心としたダンスといえます(おすすめのハウスダンサーは,EJOH,Mamsonです。音を楽しんで踊っているのがわかります。)。

ブレイクダンスでは,立ち技としてトップロックやブロンクスなどが,フロアのフットワークとして6歩や3歩などが,パワームーブとしてウィンドミル,トーマスフレアー,ナインティ,ヘッドスピン,エアートラックスなどがあります(ブレイカーのレベルがどんどん上がっており,エアートラックスの連発は当たり前になっている気がします。)。

ただし,現在のストリートダンスでは,そのジャンル以外のステップ等を用いることが広く行われており,ジャンルの区別は,ダンスに用いる音楽によるといえそうです。

 

[pullquote-left]2 ストリートダンスの振付けなどの創作性[/pullquote-left]

ア ステップや体の動きなどそれ自体

上記のような基本的なステップや体の動きなどそれ自体については,ごく短いもの,ありふれたものであり,振付けを構成する要素にすぎないとして,振付けとしての創作性は認められないといえそうです。

また,基本的なステップや体の動きなどをアレンジしたものについても,アレンジの対象を認識することができるようなものは,ありふれたものとして,創作性は認められないといえます。

なお,今迄に見たことがないステップや体の動きが存在するのかわかりませんが,仮にそのようなステップや動きが存在したとしても,当該ステップ等に著作物性を認めた場合には,特定の者の独占が許され,振付けの自由度が過度に制約される可能性があり,ダンスという文化の発展が阻害される可能性があるため,終局的には「文化の発展に寄与することを目的」とする著作権法の趣旨からすれば,創作性の要件を加重し,著作物性を認めないことが妥当であるといえます。フラダンスに関する裁判例において,裁判所は,「顕著に」異なる新規なステップについて,創作性を認める余地を残していますが,その判断は慎重になされるべきです。

 

イ 特定の楽曲などから離れた振付け

特定の楽曲などから離れた振付けについて,歌詞や楽曲を自己の解釈で表現したものではないところ,社交ダンスに関する裁判例を踏まえると,既存のステップ等を単に自由に組み合わせたものにすぎないことや,当該ステップ等の組み合わせが楽曲と無関係に制約され本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約する危険性があることも考慮すると,創作性を認めることに消極的であるべきです。ただし,後述するとおり,当該振付けが特定の対象を表現するものとして作成された場合には,創作性を認められる余地があるといえます。

一方で,パントマイムなどの体の動きも「無言劇」として著作権の保護対象とされていますので(著作権法10条1項3号),特定の楽曲から離れた体の動きも,特定の対象を表現するためのもの(時事問題,シチュエーション,特定の人間,動物,昆虫や物など)であれば,創作性が認められる余地があります。

なお,当該振付けや体の動きについて,短ければ基本的なステップや体の動きの範ちゅうになる可能性があるところ,どこまでの長さの振付けや体の動きであれば,創作性のある著作物として保護の対象になるかが問題になります。

 

ウ 特定の楽曲に対する振付け

ストリートダンスは,特定の楽曲との関係で振付けを作成するのが通常です。

ここで,日本舞踊に関する裁判例を踏まえますと,ダンスのプロリーグや大会で審査員から高得点をもらい,また,賞を得た振付けについては,ダンスに精通する第三者がその振付けを評価している以上,作成者の個性が表現されており,ありふれたものではないとして,創作性が認められやすいといえます。第1回のブログでご紹介したDリーグにおいても,特定の楽曲に対する振付けの創作性(著作物性)が問題になるものと思われますが,プロリーグということもあり,基本的に創作性が認められる方向になるのではないでしょうか。

それ以外の場合においても,ダンス全体におけるステップ等の組み合わせが,特定の楽曲の表現として,独自のもの又は動作(構成・演出・フォーメーションなど)に有意なアレンジを加えたものと言える場合には,創作性が認められると思われます。

なお,この場合も,著作権を主張する者が振付け全体又はその一部のどこまでのまとまり(範囲)を著作物として主張するかによりますが,どこまでの長さ(まとまり)の振付けであれば,創作性のある著作物として保護の対象になるかが問題になります。この点,ダンスの大会におけるパフォーマンス全体については,短いものでもなく,既存のステップなどを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出しているところ,顕著な特徴を有するといった独創性が認められやすいと思われますが,ワンエイト(2小節)で振付けを区切った場合に,どこまでをひとまとまりの著作物とするかは,振付けの自由度の制約との関係で,問題となります。

 

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