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2022年8月?改正プロバイダ責任制限法の施行に向けて

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  • 執筆者:弁護士中澤 佑一
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明けましておめでとうございます。弁護士の中澤佑一です。2022年もよろしくお願いいたします。
今年は、2021年に成立した改正プロバイダ責任制限法が実際に施行され、新たな発信者情報開示制度のスタートが予定されています。
直接の影響を受ける発信者情報開示のみならず、削除請求やネット誹謗中傷に対する損害賠償請求など多くの場面に影響や変更が出てくるでしょう。
改正法施行に向けて、改正法の概要と、今後制定される総務省令のポイント、施行前後の実務的な対応などについてまとめます。

施行は8月?

さて、まず気になる改正法の施行の時期ですが、現時点(2022.1.4)では、未定です。
施行時期について、改正法の附則では、「この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」とされており、2021年4月28日公布ですので、2022年9月までには施行されることになります。

今回の改正はかなり大きな改正のため、関係する規則や省令を整備するなどのもろもろの準備を終えて施行できるのは2022年8月あたりまでかかるのではないかと言われています。

改正の概要

ログイン型に対応するために開示対象を拡大

改正のポイントの一つ目は、Twitterなどのログイン型と呼ばれるサイトに対応するために、発信者情報開示の対象を拡大したことです。

改正前の問題点

発信者情報開示制度は、発信者の個人個人に着目するのではなく、個々のインターネット通信に着目して構築された制度です。
そして、法律上の開示対象となる通信は、「権利侵害を発生させた通信」に限定されています。

Twitterの例でいうと、誰かの悪口を言ったツイートをした時の通信、ツイートボタンをタップしたときの通信が発信者情報開示の対象になります。
ところが、Twitterの場合は、個々のツイートに関しては通信を記録しておらず、アカウントへのログイン記録を保存してます。

Twitterのように、ログイン記録を保持する代わりに個々の情報発信に関する通信は記録しないタイプのサイトは、「ログイン型」(東京地方裁判所保全部による命名)と呼ばれていますが、Twitter以外にも、Facebook、Instagram、Googleなど非常に多くのサイトが該当します。

これらログイン型のサイトは、「権利侵害を発生させた通信」の記録がなく発信者情報開示請求をしてもこの通信に関する発信者情報は取得できず、他方で、記録があるログイン通信に関する情報を発信者情報開示請求しようとしても、ログインは権利侵害を発生させた通信とは言えないのでは?という論点ががあり長らく問題になっていました。

条文を形式的に適用してしまうとログイン型に関しては一切の発信者情報開示が不可能になりますが、これではさすがに被害者救済が図られないということで、権利侵害の通信(ツイート)とある程度近接する範囲のログイン通信であれば、発信者情報開示の対象としてよいというなんとなくの解釈が裁判所でも採用されてきたのがこれまでの実務です。

改正か、改悪か、すべては総務省令次第

今回の改正は、この部分に手を入れて、ログイン型の場合にはログイン通信(「侵害関連通信」という新しい用語も定義されました)に関しても、発信者情報開示の対象とすることになりました。

改正法の施行により、Twitter等のログイン型サイトについては、発信者情報開示がやりやすくなることが期待されています(少なくとも改正を主導した総務省はより開示しやすい制度が狙いです)

しかし、発信者情報開示の対象となる「侵害関連通信」は、すべてのログイン通信が含まれるわけではなく、権利侵害と一定の関係性を有する範囲に限定される見込みです。
この詳細は、総務省令にて定められることになりますが、現時点では総務省令は案すら公表されていません。

対象投稿の直前ログインが侵害関連通信に含まれるのは確実と思われますが、果たしてそこに限定されてしまうのか、幅を持たせるとしてどのような範囲が対象になってくるのか注目です。

現状では解釈上、ある程度の関連がある範囲については発信者情報開示の対象として裁判所も認めるうえ、これを前提にTwitterなどはある時間的範囲に行われたログイン通信をすべて開示してくるため、直前ログインがソーシャルログインや通信記録の保存が不十分なプロバイダからだったなど発信者にたどり着かない通信だった場合は、それを避けて発信者にたどり着く可能性の高い通信を選択して手続きを進めています。

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中澤佑一

Twitterから開示されたログイン記録を見て、”投稿直前のはfreeWIFIサービスのプロバイダだから、二つ前のソフトバンク経由のログインについて発信者情報開示請求を続けよう”みたいなことを我々は検討してます。

改正法施行により、現在行われているこのような工夫が不可能とならないよう、総務省令で「侵害関連通信」を定義する際にはなるべく広い範囲を対象にしてほしいところです。

遡及適用?

施行日前後では、改正法施行前になされた投稿の侵害関連通信が発信者情報開示の対象となるか、いわゆる遡及適用の論点なども問題になると予想されます。
なお、この改正によって新たに開示対象になった範囲について施行前になされた投稿にも提供できるのか?という論点は、電話番号が新たに発信者情報に加わった際にも議論になり、高裁の判断は割れています(現在、弊所で最高裁に上告受理申し立てをしている件があります)。

改正法の施行までに、最高裁が明確な判断を示さない場合には、同じような混乱が予想されます。

従来の制度加え、新たな発信者情報開示裁判を創設

もう一つの改正のポイントが、”新たな裁判手続”と言われている、発信者情報開示のための新しい裁判制度を創設するというものです。

現在は、民事保全→訴訟が原則

プロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求は、実体法上の請求権だとされています。
「発信者情報の開示を請求をする権利」があるということであり、開示請求をするための手続は権利者が自由に選択することができ、裁判を用いずとも直接プロバイダやウェブサイト側に請求することもできます。

ただ、実際のところ裁判所の決定や判決がなく自主的に発信者情報を開示するプロバイダやウェブサイトは少ないこと、待たされた挙句開示拒否では通信記録の保存期間を経過してしまう恐れもあることから、本気で行う場合には裁判を行わざるを得ません。
そして、この裁判は、ウェブサイト側に対する民事保全(仮処分)という1段階目の裁判を経て、その次にプロバイダに対する訴訟という2段階目の裁判を行うのが一般的でした。

一体的で簡易迅速な新たな裁判

このように発信者と直接やり取りをする前の段階で二回も裁判をすることになります。
なかなか大変ですし、時間もかかる(全体で6~9か月程度)ということが問題として指摘されています。

この解消のために、一体的で簡易迅速な発信者情報開示制度はできないかという狙いで導入されるのが”新たな裁判手続”と呼ばれる制度です。
これは具体的には「発信者情報開示命令」「提供命令」「消去禁止命令」の3つです。
これら3つの命令を組み合わせて、ウェブサイトに対する1段目も2段目も一体的に進めてしまおうというものです。

【新たな裁判のフローチャート】

※この図は神田知宏弁護士作成の原図に中澤が手を加えたものです。

実際の手続きは、この図のようにかなり複雑なうえ、詳細が明らかになっていない部分もありますが、簡単に言うと、
①まずウェブサイト側に対して申し立てをする、
②すると二段階目のプロバイダの情報を教えるようにウェブサイト側に裁判所が命じ(これが「提供命令」)、
③これにより二段階目の相手とするプロバイダが判明すればこのプロバイダに対する申し立ても追加、
④ウェブサイトとプロバイダで発信者の特定のために必要となる情報を交換して発信者を調査
⑤最終的に裁判所が発信者の情報(住所氏名等)の開示を命ずれば、発信者の情報が申立人側にも提供される
というものです。

従来の制度と大きく異なりこの制度のポイントとなるのが提供命令ですが、提供命令では申立人側には二段階目に相手とすべきプロバイダの情報が開示されるだけで、IPアドレス等の実際の発信者情報は開示されません。
このため、暫定的な措置として低いハードルで命令が出されることが予定されています。

新たな裁判手続は、理想的に機能した場合は全体で3か月程度になるのではないかと言われており、迅速化への大きな期待が寄せられています。

海の物とも山の物ともつかない

しかし、新たな裁判手続は、ウェブサイトとプロバイダで発信者特定のために必要な情報をやり取りすることになり、申立人側はそこに関与しません。
IPアドレスとタイムスタンプだけで発信者の特定が可能な、一番簡単なケースであれば問題がないと思われますが、最近はこの2つの情報に加えて接続先やポート番号などいろいろな情報を付加しなければ発信者の特定に至らないケースも増えています。
また、発信者の特定のために必要な情報が1つに絞り込めず、A or B or Cのような形で、通信記録の調査をプロバイダに依頼することも珍しくはありません。

現在は、発信者情報開示請求を行う開示請求者やその代理人が、いろいろと工夫して調査したり、一度発信者の特定に至らないとプロバイダに回答されても諦めずに他の候補を提示して再調査を依頼したりなどして、ようやく発信者の特定に至ることも多いのですが、これはまさに「我が事」だからこそやっていることです。
「他人事」に過ぎないウェブサイトやプロバイダがこのような粘り強い対応をすることは考えられず、制度がうまく機能するかは全くもって未知数と言わざるを得ないでしょう。

裏技的な使い道に期待

このように、制度が目指した理想的な機能をするかはウェブサイトとプロバイダの善意に委ねられていると言わざる得ず、私としても懐疑的な目線を持っていますが、一つ有効な使い道として期待しているものもあります。
TwitterやGoogleなど海外法人が運営するウェブサイトに対する電話番号の開示請求です。

電話番号は2020年の8月に新たに発信者情報に加わったものです。これにより従来のIPアドレスルートとは別に、電話番号による発信者特定のルート(電話番号ルート)も利用できるようになりました。
電話番号は、IPアドレスの割り当て記録と異なり、その使用者に関する情報は短期間で消去されることはなく、また厳格な本人確認がなされています。
そのため、TwitterやGoogleなど電話番号を登録するタイプのサイトについては電話番号ルートは非常に有効な発信者情報開示の手段と言えます。

しかし、詳しい理屈は省略しますが、電話番号の開示請求は、「保全の必要性」が欠けるため民事保全ではなし得ず、(任意開示をしないサイトの場合には)本案訴訟をしなければなりません。
そして、電話番号を登録するタイプのサイトは海外法人が大半で、任意開示は行わないうえ、本案訴訟には海外送達という非常に時間がかかる手続きを要し、訴訟の開始まで約1年必要です。

電話番号ルートは、海外送達のために非常に時間がかかるというのが大きな弱点でした。

ここで、新たな裁判手続きは、民事保全において開示を命じることができる発信者情報の範囲を限定する「保全の必要性」のような要件はなく、また「非訟」を前提に柔軟に手続きを構築するため一部で海外送達の省略も可能とされています。
このため、最終的にはウェブサイト側に決定を日本で受領してもらう必要があり、TwitterやGoogleなど現状でも日本の裁判手続きに協力的なウェブサイトを相手取る場合に限定されますが、新たな裁判手続きの活用により迅速に3か月程度で発信者の電話番号を入手できる可能性があります。

しばらくは新制度と旧制度を併用

新たな裁判手続きと旧来の民事保全や訴訟との関係は、併用可能(ただし新制度の命令に対して異議がでて訴訟に移行した場合には、二重訴訟の禁止が適用され、後訴は却下)とされています。

プロバイダやウェブサイトの協力に委ねされている部分も大きいため、弊所では基本的には現行制度を本筋としつつ、新制度の利用が可能な事例を探してゆく方針です。

施行後しばらくは試行錯誤の日々でしょうが、事例を重ねて、このケースならば新制度がベストという判断枠組みも構築して行ければと思います。

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