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自分の写真が勝手に公開されたとき~侵害される権利と対処法~

  • 執筆者:弁護士水嶋恭一

写真の公開は違法?

最近、ウェブニュースで交通事故の当事者の写真が公開されたり、承諾なく撮影されたと思われる写真がSNS等に投稿されているのを目にする機会が非常に増えてきました。当たり前のように行われている写真の公開ですが、本当に許されるものでしょうか。

本コラムでは、他人の写真を無断でSNS等に晒すとどのような権利を侵害するのか、さらに自分の写真が勝手に投稿されたときにはどのように対処すべきなのか解説します。

1 どのような権利を侵害するのか

⑴ 肖像権

まず、写真に写っている人物の肖像権を侵害することが考えられます。
肖像権とは、他人から勝手に撮影されることを拒絶したり、撮影された写真、作成された肖像を勝手に公表されないこと等を主張する権利です。
肖像権は法律に記載されている権利ではなく、最高裁判所が過去の事件の判決の中で、人格権の一つとして認めたものです。

飲み会等の日常的な写真も、本人の許可なくSNS等に公開すれば、肖像権侵害の問題となりえます。そのような写真をSNSやブログ等で投稿する際は写っている人の承諾をとるか、顔をぼやかす加工等をするのが安全です。
もっとも、最初は承諾していたけど、後からやっぱり消してほしいと言われたという場面も想定できます。最初は承諾していたのだから消す必要はないとも考えられますが、このような場合でも写真を消さないと肖像権侵害となりえますので、適切に対処するべきでしょう。

また、写真に写っている人物が自ら写真を公開している場合であっても、その写真を保存し承諾なく公開すると、同様に肖像権を侵害する可能性があります。すでに公開されているからセーフ、というわけではなく、肖像権はあくまで他人によって公開をされないことを主張する権利だからです。

⑵ プライバシー権

次に、プライバシー権侵害が考えられます。
肖像権と同様に聞きなじみのある権利ですが、プライバシー権とは、他人に知られたくない私生活上の事柄を公表されないこと等を主張する権利です。
プライバシー権も人格権の1つとして保護されています。
ただし、あらゆる私生活上の事柄が公表されないというものではなく、公表された人物の属性(私人か公人か)や、公表された情報の内容(政治家のスキャンダル等)等を踏まえ、公表することが公の利益に適うというときには、他人の情報を公表することが許されるということもあります。

例えば、ある人が逮捕されたことや有罪判決を受けた旨の記事等は、公開当時は公の利益に適うものとして、プライバシー権との関係では基本的には違法とはなりません。しかし、その逮捕等から長期間経過したにもかかわらず、未だ当該記事が残っているような場合には、もはや公の利益よりも、その人個人の公表されない利益の方が大きいとして、その記事の公表が違法となる可能性があります。

肖像権とプライバシー権の関係性

ここまでの解説で、肖像権とプライバシー権が非常によく似た権利であることがわかります。肖像権はプライバシーの一部分と整理する人もいるくらい両者の関係は密接で、特に写真の公開という場面では、両者ともに問題になることが考えられます。どちらも公開されない利益を保護するものだからです。しかし、公開されたくない対象に両者の違いが出てきます。

簡単に整理すると、肖像権は個人の特定が可能な程度の「顔や姿形」等について、プライバシー権は「個人に関する情報」等について、公開されないことを主張する権利と考えることができます。

例えば顔は写っていないが個人が特定できない体の一部分が写った写真(例:性的な写真等)を、他の人には公開しない前提で第三者に提供したが、その第三者がSNS等で公開したような場合、個人の特定は通常は困難であるため肖像権侵害と捉えることは困難ですが、写真の内容によっては通常公開を欲しない個人の情報に該当しうることからプライバシー権侵害となる可能性があります。

なお、SNSで写真が公開されたものの、そのアカウントが特定の人物にのみ自らの投稿を閲覧できるようにしていた場合(いわゆる鍵アカ)であっても、その特定の者には公開されている以上、肖像権やプライバシー権を侵害する可能性があります。

⑶ 名誉権、名誉感情

写真を添付しつつ、例えばその写真に写っている人になりすまし、性的な文言や第三者を誹謗中傷する文言を付け加え、あたかもその人が発言しているかのように見せる投稿は、その写真の人物の名誉権を侵害する可能性があります。
名誉権とは、人が有する名声や信用、徳行等について社会がその人に対して与える客観的評価に関する権利です。

また、例えば写真に写っている人について、「気持ち悪い」等といったその人物を侮辱するような文言を付け加えた場合は、名誉感情侵害となる可能性があります。
名誉感情は名誉権と名前が似ていますが、社会ではなく、人が自分自身に与える主観的評価をいいます。名誉感情については、同じ言葉でも人によって感じ方に大きな差があることから、その言葉の違法性が強く、社会通念上許容される限度を超える場合に、権利侵害があったと認められます。

その投稿が名誉権を侵害するものなのか、名誉感情を侵害するものなのか、判断に迷うものもあります。しかし、名誉感情は上述したように個人差が大きいものであるため、まずは客観的な判断がしやすい名誉権侵害を主張するのが一般的です。

⑷ 著作権、著作者人格権

他人の顔が写っているわけではないが、他人が撮影した写真を無断で使用している場合、その態様によっては著作権著作者人格権を侵害する可能性があります。

例えば、その写真をSNSに投稿すれば撮影者の公衆送信権(著作権法23条1項)を、写真を加工して公開をした場合は同一性保持権(同法20条1項)を侵害する可能性があります。無料公開であれば問題はないと考えられがちですが、無料であっても許されるものではありません。

2  写真が無断で公開されたときの対処法

仮に、自分の写真がSNS等に投稿された場合、対処法としては大きく分けて2つ考えられます。1つ目は投稿の削除、2つ目は投稿者の特定です。

⑴ 投稿を削除したいとき

投稿を削除したいときにも、いくつかの方法が考えられます。

① ウェブフォーム等の活用

SNS等のサイトに、ウェブフォーム等の窓口がある場合は、そちらから問題となっている投稿の削除を請求することが考えられます。コストもあまり掛からず、サイトによっては公的な制度を利用するよりも迅速に削除されますが、請求に全く応じない可能性もあります。
また、サイトにウェブフォームがない、サイトの管理者もよく分からないというときには、そのサイトのデータが保存されているサーバーを提供していいるサーバー管理者に対して、削除請求することも考えられます。
サーバー管理者に対してもウェブフォーム等の活用が考えられますが、送信防止措置依頼の方法も考えられます。この方法による場合、一般社団法人テレコムサービス協会が公開している通称「テレサ書式」と呼ばれる書式を用いるのが一般的です。
送信防止措置依頼やテレサ書式については別に詳しく解説したコラムがありますので、こちらをご参照ください。

【ひな形つき】テレサ書式による削除依頼の書き方・削除依頼の出し方

② 削除仮処分の申立て

ウェブフォーム等で全く対応がされなかった場合、民事保全法の仮処分手続に基づき、SNS管理者等を相手に、投稿の削除仮処分申立てをすることが考えられます。削除仮処分ではなく、削除訴訟の提起も考えられますが、仮処分は通常の訴訟よりも迅速に手続きが進むため、あえて訴訟を提起するメリットは基本的にはありません。

③ 相手方に直接連絡するのは?

投稿している人物が知り合いの場合や法人の公式アカウント等の場合には、ダイレクトメッセージ等で問題の投稿につき削除請求をすることも考えられます。他方、全く見ず知らずの者が自分の写真を使用しているような場合には直接連絡をとることはお勧めしません。ダイレクトメッセージ等をすることで刺激してしまい、そのメッセージを晒されたり、さらに問題のある投稿を繰り返す可能性もあります。

⑵ 相手方の特定・損害賠償請求

写真を投稿されたことで損害を被ったとして、相手方を特定し、損害賠償請求をすることも考えられます。
情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示請求によって投稿者を特定し、投稿者を特定したあとは通常の訴訟によって損害賠償請求をすることが可能です。
確かに、問題となっている投稿を削除するだけでも十分かもしれません。しかし、投稿の削除だけをしても、繰り返し同様の投稿をされる可能性があり、そうなった場合の精神的苦痛は非常に大きいです。損害賠償請求をすることで、投稿者にこれ以上同じ投稿をさせないプレッシャーを与えることができれば、金銭面では評価できない利益があるといえます。

3 まとめ

他人が写っている写真を承諾なく公開した場合に侵害する権利と、公開されてしまった場合にどのような対処法が考えられるかを解説しました。しかし、上記で提示した方法はいかなる事例でも当てはまるものではありません。事例によっては異なる方法を選択すべき場合もありますが、そのような判断には専門的な知識と経験が必要になります。また、ご自身で対処することも考えられますが、弁護士に頼ることで、手続きがスムーズに進むだけでなく、精神的な負担も軽減されます。自分の写真が勝手に公開されたという場合には、まずはお気軽にご相談ください。また、うっかり他人の写真を公開してしまい、削除請求や損害賠償請求を受けているという方についても、おひとりで悩まずにご相談ください。最善の解決策を検討し、出来る限りサポートいたします。

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