IT法

誹謗中傷の問題は改善していくのだろうか

  • 執筆者:弁護士船越雄一

改善への第一歩は踏み出している!

 以前の記事の冒頭でも少し触れましたが(「大人にもネットリテラシー教育が必要です!」 )、2020年から誹謗中傷への関心が高まり、総務省の研究会である「プラットフォームサービスに関する研究会」では緊急提言が公表され、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」ではプロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の改正議論がなされ、同法改正が行われました(未施行)。

 特に、発信者情報開示請求に関するプロバイダ責任制限法の改正に関しては、新たな裁判制度の導入など大改正といっても過言ではなく、色々課題はありそうですが、大きな一歩であると考えています。

インターネット上の誹謗中傷の削除方面に関する進展もあり!

 上記プロバイダ責任制限法の改正は、発信者情報開示請求の手段、手続面などに関する改正で、発信者特定の可能性を少しでも高め、被害者が泣き寝入りする可能性を可能な限り減らす方向での進展です。
 では、インターネット上の誹謗中傷の削除に関して、何か進展はないのでしょうか。

 この点については、削除請求云々を直接議論するというものではありませんが、これまでの裁判事例、学問上の議論などを踏まえ、「誹謗中傷の中身」について議論、整理していこうという有識者検討会が行われています(「インターネット上の誹謗中傷をめぐる法的問題に関する有識者検討会」公益社団法人商事法務研究会)。この検討会は、2021年9月6日現在、第5回まで開催されています。
 この検討会で議論すべき論点として、2021年5月18日に開催された第2回検討会の会議資料1(「論点たたき台(改訂版)」)で公表されています。

 議論すべき論点を見てみると、誹謗中傷記事の違法性及び差止請求の判断基準や判断の在り方の議論・整理から始まり、誹謗中傷の具体的な中身として、名誉毀損、プライバシー、名誉感情(侮辱)、肖像権、氏名権というこれまで多くのケースで問題視されてきた内容だけでなく、「アイデンティティ権」などの新しい権利関係に関する議論も行われるようです。

 その他、前記たたき台では、下記のような問題点についても議論すべき論点として挙げられており、相当に幅広い問題に関して、議論される予定のようで、実務家にとっても注目すべき検討会で、私個人としてはどのような議論・整理になっていくのか、非常に興味深く見守っています。

 〇SNS等における「なりすまし」の問題(法律構成、差止請求の可否など)、
 〇インターネット上の表現行為の特徴に関する法的諸問題(スレッドタイトル・前後の投稿など投稿に関する事実認定についてどの範囲の情報を考慮できるか、リンク設定による権利侵害、基礎となる事実が明示されていない意見論評の表明、ハンドルネームの権利侵害など)
 〇個別には違法性を肯定し難い大量の投稿に関する問題点
 〇集団に対するヘイトスピーチの問題点
 〇識別情報の摘示(特定の地域を同和地区であると指摘する情報)の問題点
 〇その他(書き込みを削除しないプロバイダ等の責任、行政機関によるインターネット上の表現行為に対するモニタリング、SLAPP訴訟への対応など)

 弊所においても、上記プロバイダ責任制限法の改正への対応とともに、前記有識者検討会での議論にも注目しながら、これからも誹謗中傷対策に注力していきたいと考えております。

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