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リーチサイト「はるか夢の址」運営の逮捕を考える~リンクで逮捕?

  • 執筆者:弁護士中澤 佑一

著作権侵害を助長する「リーチサイト」

インターネットが有する他の媒体とは異なる特徴の一つとしてリンク機能があげられます。インターネット上ではリンクが設定されることにより、容易に他のページの情報にアクセスすることが可能となります。

この仕組みを利用し、違法にコピーした漫画や雑誌の海賊版を公開しているウェブサイトへリンクを張り、利用者を誘導する「リーチサイト」というものが問題になっています。通常、海賊版を公開しているサイトは検索エンジンなどには表示されておらず、URLを認識していない限り通常は容易に到達・閲覧することはできません、しかし、「リーチサイト」の存在により、海賊版のURLを知らない一般の利用者でも海賊版サイトへ容易に到達できるようになってしまいます。

2017年10月31日、大手のリーチサイトであった「はるか夢の址」を運営していた「紅籍会」の関係者が著作権法違反で逮捕されたというニュースがありました。リーチサイトの摘発はおそらく初の事例であろうと思います。この事件を題材にリンクに関する法的な問題について考えてみたいと思います。

「リーチサイト」は違法なのか?リンクによる権利侵害の論点

リーチサイトが著作権侵害を助長していることは間違いがありませんが、果たしてリーチサイトそのものが著作権侵害をしているといえるのでしょうか?

リーチサイトはリンクを設定しているだけであり、リーチサイトの中には海賊版のデータはありません。
リンクはあくまで対象の情報の所在を示すいわば標識や道しるべであって、情報そのものをどうのこうのするものではないのです。

この点について、違法な権利侵害情報に対してリンクを設定する行為が、権利侵害になるかというリンクによる権利侵害という論点があります。

名誉毀損等人格権侵害の場合

まずリンクと権利侵害の関係について、名誉毀損・プライバシー侵害など、人格権侵害については、リンク先の記事を取り込んでいると認めることができる場合には、リンク先の記事に記載された内容も含めて権利侵害性を判断するという考え方があります(東京高裁平成24年4月18日判決判例集未登載)。また、取り込み文言、誘導文言が一切なく、単なるURLの表記だけであったとしてもリンク先記事に権利を侵害する内容が記載されていたことをもって違法性を認める裁判例もあります。

リンクを設定することにより、リンク先のページの記載内容についても容易に閲覧することが可能となり、通常の読者はリンク先の記事も閲覧した上で意味内容を理解します。よって、人格権侵害の一部としてなされるリンク設定行為についてはリンクも含めた全体的な観察により権利侵害性を判断すべきでしょう。

この考え方は、おおむね裁判実務でも受け入れられているところです。

著作権の場合、リンクは侵害にならないという見解が有力

他方で、今回のリーチサイト運営者逮捕の根拠となった著作権侵害の場合について、少なくとも民事上は、著作権侵害がなされている記事へリンクを設定したとしてもそのリンク設定行為について著作権侵害は成立しないという見解が支配的です。

リツイート行為について、著作権侵害を否定した裁判例も出ています(東京地裁平成28年9月15日判決)。

このように人格権侵害の場合と結論が異なっているのは、名誉毀損等ではその侵害の態様が問われていないのに対し、著作権については、”複製権”、”公衆送信権”など、侵害の態様ごとに細かな定めがなされており、一定の行為について権利侵害とするという立て付けを取っていることが理由の一つとして挙げられます。リンクの設定を禁止する”リンク権”に当たるものは著作権法には規定がありません。

このように単純にリンクするだけでは著作権侵害として差止等を行うことが不可能と考えられていたため、「リーチサイト」について新たな規制をするべきではないか、新しい立法や著作権法の改正が必要なのではないかという議論がここ最近になって盛り上がってきているところでした。

今回の逮捕はなぜ?今後はリンクだけでも逮捕されてしまうのか?

このようにリンクの設定は著作権法侵害にはならないという見解が支配的であるにもかかわらず、なぜ今回の逮捕になってしまったのでしょうか?

その理由というか、警察側に立って処罰を根拠づけるための理屈を考えると、実際に著作権侵害行為を行っている海賊版配信サイトの運営側と、リーチサイト側に共謀が認められるなど実質的な共犯関係が認められたということが考えられます。

報道の情報のみでは逮捕の具体的な容疑内容は必ずしも明らかではないところですが、いくつかの報道や公開情報を見ますとアップロード者との「共謀」や”アップロードについて摘発”といった内容も見られました。やはり民事学説に従い、リンク行為そのものを犯罪行為とはせず、犯罪としてとらえたのはあくまで海賊版のアップロード行為であったようです。今回のケースはおそらく、リーチサイト運営者がアップロード者との共謀共同正犯であると判断されたのだと思われます。

このような共謀関係が認められない事案で、単なるリンク設定行為を違法とみなしてというのは行き過ぎでしょう。
警察が既存の法律の枠内でリーチサイトを摘発するために、アップロード者との共謀関係など背後関係の捜査などに力を入れて頑張ったのではないかと予想されます。

もっとも、たまたま著作権侵害に使用されたに過ぎないソフトウエアの開発者を著作権侵害で逮捕・起訴したWinny事件(最高裁で無罪確定)の前例もありますので、捜査機関独自の超理論によって見せしめ的に逮捕した可能性もなくはないため、どのような起訴内容になるのかは注視したいところです。

よって、今回の逮捕はあくまで特殊な事例であり、かつ、リンクを設定した行為自体が違法ととらえられたわけでもなく、今後もリンクを張っただけで逮捕ということにはならないと思われます。

なお、海賊版サイトの多くは海外サーバーで運用されているため、背後関係を明らかにできるとは限りません。そのため、権利侵害を助長するリーチサイトの問題については、今回のような既存の法律枠組みでの摘発ではなく、何らかの立法的な解決が図られるべきと考えます。

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