増え続けるSNS上での私生活情報の公開
SNS上の投稿に関するトラブルは,テレビやインターネット上のニュースなどでも良く話題になり,安易な投稿の危険性についてしばしば情報発信がなされています。しかしながら,最近でもSNS上に自身の犯罪行動を公開したり,また子どもへの悪ふざけを投稿した 結果刑事事件に発展したものなど,トラブルは後を絶ちません。今回はこのような明らかに危険な利用とは別の観点から,SNS利用に潜む問題を取り上げたいと思います。
それは,SNS上への家族,特に子どもの写真などの投稿に関する問題点です。日本人のSNS利用者のほとんどは,SNSを日記のように利用し,自身の私生活を公開するツールとして利用しています。その中でも,お子様のいらっしゃる方には,我が子を愛するがゆえにその成長過程や日々の行動などを写真に撮ってそれを公開している方も多いのではないでしょうか。
お子様が幼いころは特に自分の写真が公開されていることについて何も言わないでしょうが,大人に近づくにつれて写真が公開されていることを嫌う可能性もあり,親子間でトラブルになるかもしれません。そこで,家族の写真をインターネット上で公開することについての問題点について,法律的な観点から解説してみたいと思います。
安易な投稿は家庭崩壊を招く!?
では,親が子どもの写真をSNS上に公開することにより,具体的にどのような法的問題が生じるかというと,子どもの肖像権の侵害,プライバシー権の侵害ということが考えられます。
肖像権とは、簡単に表現すれば,自分が勝手に写真を撮られたり,その写真を第三者に公開されたりされないように主張することができる権利です。また,プライバシー権は,一般に使われる言葉でもありますので想像しやすいかと思いますが,簡単に表現すると,私生活情報を勝手に公開されない権利です。これらの権利にあてはめますと,親が子どもの写真を勝手にSNS上に公開すれば,肖像権,プライバシー権の侵害になりうることはお分かりいただけると思います。親なんだから子どもの写真を公開することも自由だ,と思われるかもしれません。
しかし,子どもも社会に存在する一私人であり,親とは独立した固有の人権の保有者です。子どもが幼いころは何も言いませんが,大きくなるにつれて自我が芽生え,多感な時期になれば,自分の意思とは関係なく公開された写真について公開されたくないと思うことも十分にあるでしょう。そうしたとき,肖像権侵害,プライバシー権侵害の問題が現実化してくるのです。
家族内で削除の要求をされることについては,ご自身でSNSから削除すればいいのですから,親子喧嘩くらいで問題にはならないでしょう。しかし,SNSの恐ろしいところは拡散の可能性がある点です。公開範囲を友人限定にしていても,その友人の公開範囲によっては拡散の可能性はあります。そして拡散された写真が悪用され,子どもが犯罪に巻き込まれる可能性もゼロではありません。
このように,被害が拡大したときには親子喧嘩では済まない事態になりかねません。子供の将来にもかかわることです。起きてしまったことへの責任を問われるとすれば,それは写真を公開した親ということになり,法的には子どもが親に対して損害賠償請求等を請求することも可能です。法的トラブルにまでなってしまっては家庭崩壊しかねません。あくまで可能性ではありますが,安易な投稿により,上記のとおり想像以上の被害をもたらすこともありますので,その点は十分に考えた方がよいと思います。
万が一第三者にまで転載等されてしまった場合はどうすれば?
親が自分の権利で削除請求することは難しい
親が自分のせいで子どもに迷惑がかかっているので消してほしいと考えても,親は被害者ではなく,法的根拠をもって削除を請求することはできません。
子どもの権利で削除請求をすることは可能
もっとも,先ほど述べたとおり,子どもも一私人として人権の保有者ですので,子どもの権利を侵害しているとして削除請求することは可能です。子どもが未成年であれば法定代理人として親が削除請求することになり,成人されていればその子ども自身が削除請求していくということになります。
親が公開したのだから,肖像権やプライバシー権を放棄しているのではないかということも考えられそうですが,子どもの許可なく公開しているのが大半でしょうからその論理は当てはまらないのが通常でしょう。また,仮に子どもの許可を得て公開したとしても,子どもがSNS上で公開されることによる影響をしっかりと理解した上で公開を許可したといえるケースはそれほど多くは無いと思いますので,この点もそれほど問題にはならないのではないかと思います。
もし,子どもの肖像権やプライバシー権を第三者に侵害されたら
次に,これまでの話と異なり,第三者が勝手に子どもの写真を撮影して公開する等,肖像権侵害やプライバシー権侵害をした場合についてです。
子どもを権利者とする削除請求等が可能
この場合は,被害者である子どもは当然権利者として削除請求することが可能ですので,特段問題はありません。また,法的手続を取り,投稿をした犯人を突き止め,その人に対して慰謝料等の損害を賠償するよう請求することも可能です。
子どものプライバシーは親のプライバシー??
では,親自身が被害者であるとして親が権利者となって削除請求することはできないでしょうか。なお,自分で申し上げるのも悲しい話ですが,子どもを権利者として削除請求等が可能である以上,この観点は実務上意味がないことであり,単なる私の法的関心事です。気を取り直して話を進めます。
たとえば,子どもが通う学校名が公開されたり,子どもの習い事が公開されたような場合を考えてみますと,子どもを権利者として権利行使することが可能なのは当然です。さらに,私は,親自身を権利者として削除請求等を行うことも可能ではないかと考えています。
親は,親権者として子に対する監護権を有しています。そして,親が子をどこでどのように教育・養育していくかは親自身にとっても重要な事項であり,親が管理・監督すべき事項です。そのように考えれば,前記例のような情報が公開された場合,親自身のプライバシー権をも侵害していると考えられるのではないかと思っています。
子どものことを考え,SNSを上手に利用しましょう!
これまで,恐怖心をあおる事ばかり申し上げてきましたが,SNSは,便利であり,友人や世間の人とのコミュニケーションをとる重要なツールです。利用していて良いことも多いでしょう。そうであるからこそ,慎重に,正しくSNSを利用していっていただきたいと思い,このテーマを取り上げました。
最近は学校や就職先もインターネット上の情報を調査しますので,SNSの安易な利用により,子どもの人生に係るトラブルにも発展するかもしれません。さらに,ご自身のSNSのアカウント上に公開されている限りであれば削除も容易ですが,友人,そしてその先の人々に写真を転載等され,更には悪いことに使用されてしまえば深刻な問題となりかねません。そして,一度インターネット上に拡散してしまった情報を全て消し去ることはなかなか難しいことです。
このようにご自身に悪気はなくとも,子どもの人生に重大な影響を与えかねないということも頭の片隅に入れておいていただければ幸いです。SNS上に何かを投稿する際は,一呼吸おいて,投稿するか否かを今一度考えるという習慣をつけるとよいでしょう。